【プロジェクト・ストーリー】 シニア世代のエンジニアに最前線で活躍し続けられる場所を提供
PROFILE
■沢田 晃一(シニア コンサルタント)
欧米で生まれ、日本でも定着しつつある人材獲得の手法、エグゼクティブ・サーチ。「このポジションで人が欲しい」という企業の依頼を受け、候補となるビジネスパーソンにアプローチし、転職するように働き掛ける。そうしたエグゼクティブ・サーチ業界における、国内の草分け的存在が、イーストウエストコンサルティングだ。今回は、同社で主に製造業界を対象にコンサルタントとして活躍している、沢田晃一を取材。イーストウエストコンサルティングが、クライアントとビジネスパーソンをどのようにマッチングをしているのか、具体例を元に語ってもらった。
日本的労働慣行による年収大幅減の回避策を提案
──最初に、沢田さんが現在、エグゼクティブ・サーチのコンサルタントとして、担当している業界を教えて下さい。
主に製造業を担当しています。クライアントとしては、メーカーの開発現場でエンジニアに活躍してもらう、エンジニアリングサービスを提供している会社が多いですね。名だたる大手メーカーでずっと働いてきた、ベテランのエンジニアさんにお声掛けして、エンジニアリングサービス会社に移っていただく。そのような案件に多く携わっています。
──大手メーカーに勤務している方だと、製造業界の“縁の下の力持ち”的な役割で、知名度の低いエンジニアリングサービス会社へ転職するのに、抵抗感を持つ方もいるのではありませんか。
ええ、相当数、いらっしゃいます。そこで、エグゼクティブ・サーチの対象になった方にお会いして、転職するメリットをお伝えすることで、抵抗感を払拭していくのが、私達コンサルタントの役割です。私がお話ししている転職のメリットは主に2つあって、1つは報酬面。もう1つは、やりがいの面です。
報酬についてのメリットは、“役職定年”による年収の大幅減を避けられること。私がお声掛けしているのは、50代・60代の方が大半です。というのも、日本の歴史のある大企業には役職定年という労働慣行があって、55歳くらいで、経営層への昇進が叶わなかったベテラン社員は年収がグッと下がってしまう。それまで1,200万円稼いでいた人が、一気に700万円というケースもザラにあります。
この慣行が確立した当時は、現在よりも早婚でした。55歳ならば子供が独立している頃。また、今よりも寿命が短かったので、50代半ばであれば、ほとんどの場合、両親は既に亡くなっていて、自分と配偶者の老後についても、それほどお金の心配をしなくて済んだ。だから、年収が下がってもやっていけました。しかし、晩婚化と長寿化が進む中、55歳でもまだ子供を養っている場合が多く、親の介護も自分の老後の費用も考えなくていけない。年収が下がっては困る人が非常に多い訳です。
その点、エンジニアリングサービスの会社ならば、例えば年収1,200万円だった方を1,000万円で迎えてくれるので、大幅な年収減を回避できる。マネープランを大きく修正することなくやっていけるのです。
技術力を大いに発揮できる機会を提供しています
──ベテランの技術力を高く評価して、高い報酬で迎えてくれる場があるのは、心強いですね。では、もう1つの転職メリットを教えてください。
「モノづくりの最前線で活躍し続けられる」ことです。国内の大手メーカーでは、50代はもちろん、40代でも、開発や製造の現場から外れて、マネジメントに専念するケースが多い。例えば、「今まではCADを使って新型車の設計をしていたのに、今はCADに全く触らず、エクセルでお金やスケジュールを管理するだけ」といった具合です。
このように、例えば40代で管理職に昇進して、現場から離れてしまうと、いざ役職定年となった時に、エンジニアとしてのブランクが10年以上。ですから、役職定年後も現在の勤務先に居続けるとしても、現場の仕事には戻れない。ほとんどの場合、より管理業務の色が濃い仕事を担当することになる。
しかし、エンジニアリングサービスの会社へ転職すれば、沢山の開発・製造現場の中から、その人の技術力に見合ったところへ派遣されるので、最前線で働き続けられる。エンジニアとしての力量を、大いに発揮して活躍することができます。
──なるほど。報酬とやりがいの両面で、シニア層のエンジニアにとって満足できる新たなキャリアを提案している訳ですね。
はい。ただ、エンジニアリングサービス会社は、業態としては人材派遣業。リーマン・ショックの時に“派遣切り”が社会問題化したイメージもあって、「すぐ切られるのではないか」といった不安を持つ方も。そこで、「モノづくりのエンジニアリングサービスの場合は正社員雇用で、役職定年もなく、70代になっても健康でさえあれば働き続けられる」といった説明をして、不安感の解消に努めていますね。
日本のモノづくりのエコシステム構築に貢献
日本のモノづくりのエコシステム構築に貢献 ──良く分かりました。では、沢田さんが手掛けた、具体的な事例をシェアして下さい。
では、北関東の開発現場で活躍してもらうエンジニアさんを紹介したケースをお話しします。クライアントさんは外資系のエンジニアリングサービス会社。北関東にある拠点で、インド人エンジニアも含むメンバーをマネジメントしながら、モノづくりの開発プロジェクトを進めていくプロジェクト・マネージャーを探していました。「そのモノづくりの現場に精通しているベテランで、マネジメント能力があり、インド人エンジニアと英語で意思疎通ができる」という条件です。
私がサーチした結果、国内の大手メーカーに勤務する、60代のベテランの方が条件にぴったり。そこで、お声掛けしたのですが、最初はお断りされてしまった。その方は東京都内に自宅を構えていて、お子様を転校させられないご事情があったからです。
しかし、私は諦めなかった。その方は、現在は1,000万円超の年収をもらっていますが、もうすぐ定年になり、その後、再雇用されると年収が約300万円にまで減る見込み。それが、転職すれば1,200万円を確保できることを伝えました。「それに、同じ関東ですし、週末には自宅に戻れるでしょう。単身赴任という方法もありますよね」と。
それが背中を押すことになったようで、ご本人がご家族を説得して下さり、最終的にはOKをいただきました。実際、転職後は水を得た魚のように大活躍してくれて、クライアントさんからプロジェクトメンバーの採用も任されていて。実は、その方からメンバーのサーチを依頼され、もう2名、その現場への転職を成功させています。北関東での生活も気に入られたようで、「子供が一人暮らしできるようになったら、妻にこっちへ来てもらおうかな」と、楽しそうに未来のビジョンを語っていらっしゃったのが印象的でしたね。
──シニア層のエンジニアの方に好条件のセカンドキャリアを提供し、クライアント企業のビジネスの成功に繋がり、沢田さんの売上も上がる。まさに“三方良し”ですが、沢田さんが一度、エンジニアの方から断られたにも関わらず、諦めなかったのは、なぜですか。
「案件を成功させることが社会貢献になる」。その一念です。日本のモノづくりを支えてきたベテラン・エンジニアの方々が、現場と離れた閑職に就き、低収入に甘んじるのは、社会的に大きなマイナスでしょう。一方で、大企業には「新たな雇用を作り出す」という使命があり、ベテランの給与をカットする分、多数の若手を採用し、一流のエンジニアへと育成していく仕組みになっている。役職定年の慣行が直ぐに改まるとは思えません。
それならば、ベテラン・エンジニアの方に、これまで培った技術力を活かせる現場での仕事に就き、これまでとほぼ同等の給与が保証される仕事へ移ってもらうのが、一番の解決策。私が手掛けているのは、日本のモノづくりエンジニアの新たなエコシステムを築く仕事だと言えます。それに、ベテラン・エンジニアに現場で活躍してもらえば、一緒に働く若手に技術を伝承していくことも可能になる。微力ながら、「社会に貢献する仕事をしている」という自負があります。
コンサルタントとしてずっと現役でありたい
──そうした想いがあるから、ビジネスパーソンの方を説得する時、一歩、踏み込むことができるのですね。最後に、沢田さんご自身の今後のキャリアビジョンを聞かせて下さい。
70代になっても、今と同じ様に、コンサルタントの仕事を続けていたいですね。実際、イーストウエストコンサルティングには70代でバリバリ売上を上げているコンサルタントの方がいて。ずっと現役で居続けることができる環境です。それに、とても自由な風土があって。例えば私は趣味でバンドをやっているのですが、終業後にライブに行く時、ギターをオフィスに持ち込んでも、何も言われない(笑)。シニア・エンジニアの方がずっと現役で活躍できるお手伝いをしながら、自分自身もまた、仕事でもロックでも、現役であり続けられたら、最高だと思っています。